企業不祥事の危機対応の限界

この文章は下記の郷原信郎氏の記事の要約です。

ジャニーズ事務所・会見、“危機対応”において「不祥事」が発生した原因とは

ジャニーズ事務所は「ジャニー喜多川氏の性加害問題」に対する対応で批判を受けている。初めの記者会見で社名の維持を発表したが、評価されず、スポンサーとの契約が打ち切られた。その後の記者会見で社名を「Smile-up.」に変更し、被害者への賠償後に廃業する方針と新会社設立を発表したが、これもまた批判を受けた。特に、会見で特定の記者を避ける「NGリスト」が作成されていたことが明らかになり、それが新たな不祥事とされている。記者会見には弁護士も参加しており、その関与についても問題視されている。この経緯を見て、コンプライアンスと危機対応の専門家である筆者はジャニーズ事務所の危機対応について考察する意向を示している。

「危機対応における不祥事」は極めて異例

2014年に公刊された著書では、企業が不祥事対応に失敗する理由と、適切な危機対応戦略の重要性を指摘している。弁護士や危機対応の専門家が関与する目的は、企業が責任を果たし社会の信頼を回復することにある。危機対応自体が新たな「不祥事」となることは絶対に避けなければならない。ジャニーズ事務所の最近の問題は、危機対応として最悪の失敗であると評されている。

危機対応の失敗2つの要因

第一の問題は、ジャニーズ事務所の初めての危機対応が、特定の個人の利益や意向に偏っていたこと。具体的には、ジュリー藤島氏が代表取締役に残ると発表したり、彼と密接な関係にある東山紀之氏が社長に就任した点が批判された。第二の問題は、記者会見での説明責任が不足していたとされる点であり、これが国際的な批判を招いた。加えて、危機対応に関与した木目田弁護士がこれらの方針に問題がないとしたことで、弁護士の危機対応への関与自体が問題となっている。

ジャニーズ事務所の不祥事」とは何なのか

ジャニーズ事務所は大手芸能プロダクションであり、非常に影響力が大きく、売上は推計1000億円とされる。創業者であるジャニー喜多川氏は、長い期間、未成年タレントに対する性加害を繰り返していた。この問題は内部では一定程度認識されていたが、公には問題視されず、事業は続けられていた。しかし、ジャニー氏の死後、英国BBCの報道により、日本でもこの問題は大きく取り上げられ、その存在自体が社会的に許容されない状況に追い込まれている。

危機対応は誰のために行うのか

危機対応の際、企業や経営者の利益と社会的責任はしばしば対立する。第三者委員会は企業や経営者から独立した立場で説明責任を果たすべきだが、弁護士の立場は複雑である。特に、ジャニーズ事務所のような問題においては、経営者個人の意向と企業の社会的責任が大きく対立するケースがある。企業の現状が社会的に許容されないレベルまで批判されている場合、弁護士は倒産処理を受任した場合と同様の立場で対応すべきと言える。しかし、そのような危機状況はしばしば予測困難であり、弁護士がどの時点で関わるべきかは不明確である。

ジャニーズ記者会見の対応方針は「日本的株主総会対応」と似ていた

ジャニーズ事務所の記者会見対応は、一般的な日本の大企業が行う「株主総会対応」と似た手法が取られたと考えられる。その主目的は経営陣の負担を軽減することであり、本来のコミュニケーションの場としての機能は後回しである。特に問題視されるのは、「指名候補記者・指名NG記者リスト」の存在であり、これにより批判的な質問を避け、経営陣に対する批判を最小限に抑えようとする様子が見られる。ジャニーズ事務所とその顧問弁護士は関与を否定しているが、このような手法は特に重大な不祥事が発覚した際には不適切であると言える。今後の危機対応での透明性が求められる。

「危機対応の失敗」はなぜ起きたのか

ジャニーズ事務所は、不適切な危機対応により更なる批判を受け、厳しい状況に追い込まれている。木目田弁護士の危機対応も批判を受けており、問題は社会的要請が交錯する複雑なコンプライアンス問題であるとされる。加害者である創業者のジャニー氏は既に死亡しており、責任を問うことはできないが、長期間にわたる性加害問題が存在しているため、企業の存続は社会的に許容されていない。この複雑な状況では、被害者への救済、組織上の問題の解決、そして所属タレントとファンの期待に応えるバランスを取る必要がある。この危機対応は極めて特異で複雑なものであり、その対処は難解である。

コンプライアンスとは「社会の要請に応えること」

筆者は2004年から桐蔭横浜大学コンプライアンスに関する研究と活動を行っており、コンプライアンスは単なる「法令遵守」以上のものであると主張する。多くの著作と講演を通じて、企業の不祥事に対する第三者委員会の役割も担っている。ジャニーズ事務所の問題に関しては、被害者の救済が最優先であり、その実現は簡単ではない。この問題は、ジャニーズ事務所だけの問題ではなく、芸能業界とメディアの構造的な問題も含む。それゆえに、この事件は日本社会の多くの構造的問題に触れる「巨大不祥事」と言える。

弁護士等が関わる企業不祥事の危機対応の限界

今回のジャニーズ事務所の危機対応の問題を専門家の視点から評価すると、コンプライアンスの深い理解と社会的要請への全体的な視点が必要である。過去には、企業の不祥事対応は法律事務所の主要業務外であり、独立系の弁護士が対応していたが、2008年のリーマンショック以降、大手法律事務所もこの領域に参入している。これらの事務所は社内調査から第三者委員会の設置に至るまでの業務を受託し、膨大な費用を請求することで、安定した収入源となっている。不祥事が発生した際には、証拠収集と原因分析を行い、違法性が明確な場合は効果的な対応が可能である。

ジャニーズ事務所の不祥事は個々のスキャンダル以上に、深刻なコンプライアンスと社会的要請の問題を浮き彫りにしている。これまでのコンプライアンス対応が表面的であり、複雑な社会的背景に十分な配慮がなされていないとされる。今後は、この複雑な構造を全体的に理解し、過去の事例を明らかにする必要がある。また、テレビ会社や広告会社と連携し、より多角的な事実解明と議論を深めることが求められる。危機管理についても、内部だけでなく外部の専門家を交えた組織の設置が検討されるべきである。